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青年恋愛Web漫画『黄昏色のBARが語りかけてくる』 ふたたび夕美が僕の部屋にやって来た。一ヵ月ぶりに見る彼女はやはり美しかった。この一ヵ月の間に変わったこと、それは僕が確実に彼女を愛し始めたということだ。僕は彼女といる三日間の間になんとかそのことを彼女に伝えたいと思っていた。言葉ではなく行動で。 夕美が滞在していた三日間に僕は彼女のことを理解するために必要ないくつかの話を聞いた。 ベランダで夕涼みをしていたとき、彼女は母親の話を始めた。 「母がまだ結婚する前の話なんだけど、母にはつき合ってた人がいたのね。相手はお金持ちの家の息子さんだったんだって。それで、母はその人と婚約もしてたんだけど、そのころ、父と知り合ったらしいのよ。父の家はっていうと、別にお金持ちだったわけじゃないんだけど、それから父は母に猛烈にアタックしだすの。で、母はそんな父を見ているうちに、だんだん父に魅かれていくの。この人にはまだ地位も何もないし、先もどうなるかわからないけれど何かを感じるって。それで、母は婚約してた相手の人と別れて、父と一緒になったっていうのよ。この話聞いたときにさ、私、母のことすごく好きになっちゃった」 僕はというと、その話を聞いて母のことが大好きになる夕美のことを頼もしく感じた。僕はそういう女が決して嫌いじゃない。 夕美は彼女が中学生だったころの話もした。 「中学三年生のとき、私、担任の先生が大嫌いだったの。女の先生だったんだけど、意地悪で 」 「俺も嫌いな先生はいっぱいいたな。ほとんど嫌いだったよ、学校の先生なんて」生徒が理解するしないに関わらず、時間内に決められただけ進められる授業、女にだけやさしいスケベ野郎、脳の柔軟性に欠ける、あるいは極めて保守的なため、自分に理解できない生徒は頭から悪と決めつける腰抜け野郎等々。少なくとも尊敬できる先生になど残念ながら僕はお目にかかることなどできなかった。 「それでね」と夕美は言った。「高校入試のときに私が志望してた学校は私には絶対不可能だってその先生に言われたのよ。それで、私は頭に来て、その先生と喧嘩して、なんとか推薦状を書かせたの。それから私はムキになって猛勉強して、本当にその高校に受かっちゃった」 「すごいんだな、夕美って」 「ううん、そうじゃないの。とにかく何でもとことんやらないと気が済まない性質なのよ」 僕は勉強なんてあまりがんばってやったことはなかった。試験の前日もほとんど一夜漬けだった。勉強なんて誰でもやればやるだけできるようになるものじゃないか、という考えが僕にはあったのだ。もちろん、多少の個人差はあるだろうが。それで、そんな、ほとんどの人間がやればやるほど似たようなレベルに到達するようなことになど僕は興味が持てなかったのだ。 しかし、僕が夕美の『何にでもひた向きなやり方』に強く魅かれたのは事実だ。 夕美は海が好きだということだったので、次の日僕は彼女を港に案内することにした。港で船を見ていたとき、僕はやはりこの話をするべきだと思った。 「実は会社を辞めようと思ってる」 「ふーん。どうして?」 「会社の考え方と俺の考え方が合わないんだ。会社は儲け主義に走ってるんだけど、僕は納得のいくまで仕事には時間をかけたい。もちろん、俺のしている仕事は時間の制約もあるし、時間をかけたからといって必ずいい仕事ができるとは限らないんだけど、ただ、いいかげんに仕事を流すのは耐えられないんだ。俺の考えでは、精一杯やったときに初めて何かを得られるし、それによって俺自身も成長し、結果として会社により貢献できるということなんだ(こんな真面目な話をするのは夕美が相手だからだ)。会社にいる、他の連中は適当に仕事を流しているけれど、俺にはどうしてもそれが納得いかないんだ。それで、今では会社の中では人間関係も悪化する一方でね」 「辞めちゃえばいいのよ」 「え」 「そんなの意味がないじゃない。辞めて正解よ」 僕たちの前を船が通り過ぎた。 「がっかりしただろう」と僕は言った。 「何が?」 「君は仕事をきちんとやり通せない人間は嫌いだと言ってた。俺は入社してまだ一年足らずの会社を辞めようとしている」 「だから何なの?あなたは自分の納得のいく生き方がしたいんでしょう?それならいいじゃない」そう言って彼女は少し姿勢を正した。「それと、こういう言い方って失礼かも知れないけれど、そんな話聞いてがっかりするほどあなたのことすごい人だと思ってないのよ」彼女の髪が海の方から吹く風で揺れる。 「私はどんなことにもいっさい先入観は持たないことにしてるの。それはあなたに対しても同じ。あんな人なんだろうな、とかこんな人なんだろうな、とか、そういう先入観はいっさい持ってないわ」そう言って彼女は僕の方に顔を向ける。 「怒ってる?」 「いいや」 「相手に期待し過ぎてあとでがっかりするのって、結局その相手に対しても失礼だと思うのよね」 「なるほど」 「物事を見るときに先入観を持っていると、とても損をすることがあるの」 僕はそんな彼女の考え方にとても興味を持った。 無の状態で物事を見つめる。 そして僕は共感を覚えた。 ※このWeb漫画をご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。