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青年恋愛Web漫画『黄昏色のBARが語りかけてくる』 電話が鳴った。礼子からだった。 「久しぶり」と礼子が言った。彼女とはこの間喧嘩をしたままになっていたが、僕はもうそんなことなど忘れていた。というより、仕事のことで、それどころではなかったのだ。 「元気にしてる?」 「まぁな」 「よかった。昨日ね、川島さんと話をしてたらあなたの話になって、あなたが仕事のことでかなり疲れてるみたいって聞いてたから。会社が終わったあとにまだ仕事があるんだからたいへんみたいよって」 「そりゃ大変なのは大変だけど、漫画は仕事というより、好きでやってることだし。実際のところ、会社でやってる仕事とは比較にならないくらい夢中でやってる」 「そう。本当によかった。元気みたいで」 「それにね、最近また初心に戻ったような気分なんだ。正直言うとね、漫画はもちろん好きでやってることだから続けてこられたんだけど、それでもね、最近ちょっと煮詰まってたんだ。『うまく描かないといけない』みたいな気持ちばかりが先走りして、かえってデッサンが狂ったりして」そこまでしゃべったとき僕は、礼子を相手に俺はいったい何をしゃべってるんだろう、と思ったが、続けることにした。 「で、思い出したんだ。漫画なんて、いや、俺に言わせりゃピカソやゴッホだって、もとを正せば一枚の落書きから始まってるんじゃないかってね。もちろんこれは俺の勝手な論理で、もしもゲージュツ家のセンセー方が聞いたら、かんかんになって怒りだすんだろうけど。でも俺がこういうことをやり始めたのは、小さいころにチラシなんかの裏に書いたりしてた落書きがきっかけなんだよ。だから肩肘張ったって仕方がないってね。昨日も遅くまで落書きを描いてた」僕は煙草に火をつけた。 「そういうのって忘れてたよね」と礼子が言った。 僕は相槌を打ちながら、わかった風なことを言いやがって、と思ったが、黙っておくことにした。 「これは今まで言ったことなかったことだけど」と礼子が言った。「私、あなたの絵、好きよ」そのあと少し間を置いてから礼子は続けた。 「なんて言うのかな、やさしさのある絵だと思う」 「そうかな。俺はそういうの意識したことはないけど」 「でも心配なのは」 「・・・・・・?」 「あなたって、今すごく尖ってるから、それが今度の漫画の絵に出なければいいなってこと」 「心配ないよ。どれだけ尖ってても不機嫌なときでも、絵を描くときには目に見えない相手に向かってささやくような気持ちで描くことにしてるから。キザに聞こえるだろうけど、でも、とてもたいせつなことだと思ってる」 礼子と僕はそのあとも約一時間ほどいろいろな話をしてから電話を切った。 ※このWeb漫画をご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。