黄昏色のBARが語りかけてくる

物語を始める前に話しておかなければならない大切なこと

長編漫画。時を経て甦る1990年代のストーリー。 この物語のテーマは愛 (あるいは・愛は壊れやすいもの)。 季節は夏。5月中旬から9月初旬にかけて・・・・・・。 ストーリーは、ひとりの青年と彼をとりまく友人Fを始めとする … 続きを読む

序章

  先日友人Fは、交際中の女との間に一ヵ月間の冷却期間を置くことを提案した。 僕は僕で、二ヵ月ほど前にある女と別れたばかりだ。Fと僕はそれからの週末をどうしていいかわからず、週末が来るたびにただ何となく海や街に … 続きを読む

目次

  青年恋愛Web漫画の大作の目次コンテンツ。全てのストーリーはここから繋がっていく。時を経て甦る、失われた時代の物語。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

誰かがやってくる

六月は気がつかないうちにやって来ていた。 その二週目の週末に、その夏の僕にとって重要な意味を持つ事件が起こることになる。───それは音もなく静かに僕の傍に忍び寄り、ある出来事として僕の前に姿を現した。そして、その後それは … 続きを読む

side1

ある週末、Fと僕は湾岸公園のディスコパーティに出かけ、不思議な女たちと出会う。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

降参

まいった。降参だ。 何だまだ寝ていたのか。もうじき日が暮れるぜ。 ありがとう。おかげで爽快な気分だ。 腕は上がったのか? 来年の国体を楽しみにしていてくれ。 ところで、先週の女はどうなった? あれっきりだ。電話もかけてな … 続きを読む

本当はミニクーパーに乗りたかった

僕が髭を剃り終えて髪をといているとき、Fはもうすでに車のエンジンをかけていた。僕はその日の新聞を片手に急いで部屋を飛び出した。黄昏時の涼しい風が僕の頬を通り過ぎた。僕が助手席に座るとすぐにFは車を発車させた。 Fは車を運 … 続きを読む

その日の朝刊

湾岸公園に向かう途中でFはふいに車の速度をゆるめた。この辺りにはいくつかのバーが寂しそうに佇んでいる。 「知ってるか?」とFが訊いた。 「このへんの店、ずいぶんさびれているだろう」 「ああ」 「この間ある人から聞いたんだ … 続きを読む

湾岸公園

湾岸公園は僕の住んでいるアパートから車で約三十分ほど走ったところにある。僕たちの行きつけのディスコはそのすぐ近くだ。 僕たちがディスコに入るともうすでにたくさんの男女が集まっていた。音楽はちょっと前から流行りのユーロビー … 続きを読む

出会い

外はもう日が暮れていて、海の方からは涼しい風が吹いていた。湾岸公園にはたくさんの外灯が灯っていてきれいだ。そこら中に恋人たち、あるいは女たちのグループの姿は見られるが、男のふたり連れは僕たちだけだった。 僕たちは適当なベ … 続きを読む

あのとき

今から考えると、あの時僕が振り返らなければ、何も変わらなかったのだろう。 僕は素早くその女たちを確認した。そして一方の女と目が合った。 「やぁ」僕が適当に声をかけると女も軽く微笑んで受け流す。 「休憩?」 「そうよ」 「 … 続きを読む

「ところで彼女も同じ会社?」 「彼女はね、違うのよ。私が前にいた会社で知り合った子で、私の後輩だったの」 「彼女の歳は?」 「二十歳よ」 「ということは、君は彼女よりいくつか年上ということかな?」 「さぁね、ところであな … 続きを読む

週末

週末だったので街はかなり混んでいたが、とりあえず僕たちは適当なバーを見つけ、四人分の席を確保した。 「ところでふたりの名前は?」と僕が訊いた。 「私が夕美 (ゆみ)」と僕としゃべっていた方の女が答えた。「そして、隣が幸子 … 続きを読む

それじゃね

「それじゃね」と夕美が言った。 「送っていくよ」僕はふたりを引き止めた。 彼女たちが乗り込むとFはゆっくりと車を発車させた。 「どこかで酒を買って君たちの部屋でもう少し飲まないか?」とFが彼女たちに訊いた。彼がこういうこ … 続きを読む

ホテル

結局僕たちは彼女たちの泊まっているホテルの部屋に入った。とことん遊ぶのは悪くない。それから僕たちはまた一時間ほどしゃべったあと部屋の電気を消した。ベッドはふたつあって、そのうちのひとつにはFと幸子が、そしてもうひとつには … 続きを読む

何か書くもの

「ねぇ、何か書くもの持ってる?」と夕美が訊いた。「電話番号教えて」 僕はポケットに入っていた何かのイベントのポストカードを取り出した。そしてそれをふたつにちぎってひとつを彼女に渡した。 「君のも頼むよ」それが礼儀だ。 僕 … 続きを読む

一ヵ月の空白期間

一ヵ月の空白期間のあと、Fは淳子の家のインターホンを押した。彼女は一ヵ月前とはうって変わって、げっそりと痩せてしまっていた。 「どうしたんだ?」とFが訊いた。淳子のかわりに彼女の父親が、彼女が拒食症にかかっていること、二 … 続きを読む

仕事は退屈だ

仕事は退屈だ。事務所では所長以下六名がデザイン作業に従事しているが、ろくな人間はいない。もったいぶったしゃべり方、人を食った態度、惰性で流す仕事のやり方、そんなすべてが僕には気に入らない。仕事中楽しいのは、まさに仕事をし … 続きを読む

出版社

金曜日に僕は礼子の勤めている漫画の出版社を訪れた。会社のあるビルの一階でそのパーティーは行なわれていた。もうすでにたくさんの人間が入り乱れていて、僕はその人の中をかき分けながら川島さんの姿を探した。 「ここよ」川島さんが … 続きを読む

あれ以来

夕美からは、あれ以来毎日のように電話がかかってくるようになった。 「もしもし」夕美からだ。 「起きてた?」夜の十二時だ。ひとりで暮らしていると、こんな時間にも電話はしょっちゅうかかってくる。眠るわけにはいかない。 「元気 … 続きを読む

礼子からの電話

僕が漫画の仕事を引き受けてから三日後、また礼子から電話が入った。今度は僕の部屋にだ。 「考えれば考えるほどわからないのよ」と礼子が言った。この間のよそよそしい調子とはうってかわってまたもとに戻ってやがる。やっぱりバカじゃ … 続きを読む

選択

「ねぇ、もういちど考え直してみて」と礼子が言ったとき、僕は、ハッと我に返った。 「もう、どうにもならないよ」と僕は言った。 「考え直す余地はないの?」 「ない」僕はきっぱりとそう言った。 「そう」と礼子は言った。「それじ … 続きを読む

結婚式場の予約

結局、Fは結婚式場の予約はキャンセルしなかった。そして、彼女と行くはずだった旅行にはひとりで行くことにした。 Fは初めて訪れる風景の中をバイクで飛ばした。いくつかの風景がFの心を少しの間和らげてくれた。牧場の近くでFはバ … 続きを読む

婚約

旅行から帰ったあと、Fは一週間彼女からの返事を待った。しかし、彼女からは何の音沙汰もなかった。仕方がないのでFは会社帰りに彼女の家の近くに行き、彼女がどうしているのか探ってみることにした。 三十分経ったが淳子は現れなかっ … 続きを読む

待ち合わせ

夕美との待ち合わせの場所は新幹線の改札を出たところだった。彼女と初めて会ったのは二週間前だが、僕は彼女の顔をあまりよく覚えていない。僕は昨日の夜電話で彼女に、うまく見つけてくれよ、と頼んでおいた。僕は周りを見渡したが彼女 … 続きを読む

部屋に帰ると窓から西陽が少し入りかけていた。僕はすぐに冷房のスイッチを入れた。 「いい部屋じゃない」と夕美が言った。 「気に入った?」 「ええ、とってもいい感じ」 「でもよく見ると、そんなに金をかけていないのがわかるだろ … 続きを読む

黄昏ベランダ

夕美が西日の当たっている窓の方を指した。僕の部屋には少し広めのベランダがついている。そこにはデッキチェアーがふたつと、ビーチパラソルのついたテーブルセットが置かれてある。彼女がベランダに出たので、僕もそのあとに続いた。黄 … 続きを読む

日が落ちてきた

夕美が、ちょっと早いけど乾杯にしない?と言うので、僕はビールと、買ってきた食べ物をいくらかテーブルの上に並べた。彼女はバーボンが好きだということだったので、とりあえず買っておいた。 「再会できたことに」そう言って僕たちは … 続きを読む

もう何も

「ねぇ」と夕美が言った。「怒ってる?」 「いいや」と僕は言った。「何だか俺もはしゃぎ過ぎていたような気がする。久しぶりに部屋を掃除したりして。でも、まぁ、楽しかったよ」そう言って僕はまたしばらく窓の外を眺めていた。 「ね … 続きを読む

こんな女

夕美と再会した次の週末、僕はFと会った。僕たちは湾岸に行くことにした。 Fはこれまでの淳子との経緯を僕に話した。 「あっけにとられた」と海を見ながらFが言った。「ついこの間見合いをした男と、一週間も経たないうちに婚約して … 続きを読む

手紙届いた?

「手紙届いた?」 「ああ、仕事忙しそうだな」 「そうなのよ。もう読んだの?」 「さっき読んだ」 「そっちは忙しい?」 「土曜の夜も家にいるぐらいだからね」 「今何してたの?」 「ああ、夕美には言ってなかったけど、俺、会社 … 続きを読む

この違いわかる?

「さっき自分でしゃべってて気づいたんだけど」 「?」 「女の子って普通、自分のことを私って言うじゃない」 「ああ」 「それで、『わたし』と『あたし』の違いってあるのよね」 「夕美は何て言ってたっけ?」 「『あたし』。自分 … 続きを読む

Side2

F、順子、礼子、川島、そして、僕と夕美を絡めた物語はさらに複雑な階層構造となって展開していく。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

夕美はいつも

夕美はいつも『それじゃね、おやすみ』と言ってから電話を切る。それが彼女の口癖らしい。そういえば、この間電話で彼女は言っていた。私は、仕事は仕事できっちりやらないと気が済まない性質なのだ、と。また、仕事をきちんとやり通せな … 続きを読む

俺たちのやっている仕事は

昼休みのあとも僕は考え事をしていたので、うしろの席の眼鏡をかけた女が呼んでいるのに気づかなかった。 「いいかげんにしてよ」と彼女は言った。「忙しいんだから、お互いに」 「ああ、ごめん。それで?」 「そのパッケージのデザイ … 続きを読む

退職願

しかし、その件があった数日後、僕はやはりこの事務所の空気が肌にあわないことを悟った。そして、それと同時に僕は、会社の中では自分の殻に閉じこもってしまっている自分に気づいた。社内の人間たちと言葉を交わすこともほとんどなくな … 続きを読む

射撃場

Fは、会社には市場調査に行くと嘘をついて射撃場にいた。Fは銃を握りながら淳子とのことを考えた。   本当にこれでよかったんだろうか?いや、だめだ。このままでは俺は一生後悔することになる。 俺は必ず彼女を取り戻す。 その夜 … 続きを読む

君がそこに立っているだけで

ある日、困り果てた彼女の父親がFの前に現れた。 「やめてくれないか。淳子はもう君のことをなんとも思っていない。淳子の中にあるのは思い出だけだ。淳子の思い出をそっとしておいてやってくれ」 またその次の日、「いいかげんにしな … 続きを読む

星に願いを

夕美から小包が届いた。封を開けると、中には小さな手動式のオルゴールと懐中電灯が入っていた。先日彼女が会社の連中とディズニーランドに行ったときのみやげだと同封の手紙に書いてあった。 僕はオルゴールを鳴らしてみた。『星に願い … 続きを読む

懐中電灯

懐中電灯の先の丸い部分の中にある銀の小片に光が反射して、 僕の部屋には予想もしなかった幻想的な美しい光が照らし出された。 さらに振ってみると、光は赤から黄、そして青へと変わっていった。 僕はまるで夢でも見ているような気持 … 続きを読む

手紙

数日後、夕美からある手紙が届いた。これまでも彼女からは何通か手紙が届いていたがそれらはとりとめのない内容のものだった。しかし、今回のものは特に長く、便箋で五枚にも渡っていた。僕はこの手紙に強い共感を覚えた。そして、彼女と … 続きを読む

ささやくような気持ち

電話が鳴った。礼子からだった。 「久しぶり」と礼子が言った。彼女とはこの間喧嘩をしたままになっていたが、僕はもうそんなことなど忘れていた。というより、仕事のことで、それどころではなかったのだ。 「元気にしてる?」 「まぁ … 続きを読む

切るに切れない電話

次の朝僕は電話の音で目が覚めた。 「もしもし、私」と夕美が言った。時計を見ると、まだ六時三十分だった。 「ああ、どうした?」 「昨日眠れなかった」 「なぜ?」 「電話をかけたけど、ずっと話中だったから」しまった。昨日は夕 … 続きを読む

僕はそんな彼女の考え方にとても興味を持った

ふたたび夕美が僕の部屋にやって来た。一ヵ月ぶりに見る彼女はやはり美しかった。この一ヵ月の間に変わったこと、それは僕が確実に彼女を愛し始めたということだ。僕は彼女といる三日間の間になんとかそのことを彼女に伝えたいと思ってい … 続きを読む

別れた人

僕たちは船乗り場の近くにあるバーに入った。以前は倉庫だった建物をそのままバーにしたという店なのだが、僕はここが気に入っている。川島さんともよくここへ来る。カウンターでは女性のマスターがシェーカーを振っている。店にはまだそ … 続きを読む

十八のとき

「彼とは私が十八のときに知り合ったの。私は短大生で彼は高校生だった。彼はまだ子供で、精神的にも私の方がずっと年上だった。大げさに聞こえるかも知れないけれど、彼はいつも私のことを、生きる上でのお手本にしてるみたいな、とにか … 続きを読む

私、殺されてもいい

彼があんなに怒ったのはそれまで見たことがなかった。それで喧嘩になって、彼はもうどうかしちゃった みたいだった。私は彼に髪の毛を掴まれて、車のフロントガラスに頭を打ちつけられたの。私の頭からは血が流れ出して。でもね、あのと … 続きを読む

いちばん好きな人

「そのあとまた少し経ってからもとに戻ったんだけど、やっぱりうまくいかなかった。 彼は、私と会ってると、つらくてつらくて仕方がないって言ってた」 僕にはその彼の気持ちがとてもよくわかった。 「君はたいせつな人を失ったな」と … 続きを読む

最高潮

僕は彼女を強く抱きしめた。僕たちは燃えるように愛し合った。そのとき僕たちは確かに最高潮に達した。それと同時に僕の中には、何かが通り過ぎていったような奇妙な感覚が残った。外は快晴。まさに真夏だった。 僕はもういちど夕美を抱 … 続きを読む

海につき合ってくれる?

「来月来たらさ、海につき合ってくれる?」と彼女が訊いた。 「いいよ」 「それと、私のよく行くバーも紹介したいんだけど」 「ああ、興味があるな。どんなバーなんだろう?というより夕美にとって、どんな意味のあるバーなんだろう? … 続きを読む

花束

Fが淳子に送った花束が送り返されてきた。同封の手紙は彼女の父親からのものだった。どうやら、彼女の父親が送り返してきたらしい。 これは君に返す。娘のためにだ。このような真似は、金輪際やめてくれ。 花はしおれかかっていた。F … 続きを読む

漫画のアイデア

川島さんから依頼された漫画のアイデアが出来上がった。僕はそれを持って、再び礼子の会社を訪れた。 「どう?調子は」と川島さんが訊いた。 「ええ、なんとかがんばっています」 僕は漫画のアイデアを説明した。漫画のストーリーの中 … 続きを読む

待ち伏せ

川島さんとの打ち合わせを終えて僕が扉の外に出ると礼子がいた。どうやら彼女は僕を待ち伏せしていたようだ。彼女は一瞬薄気味悪い笑みを浮かべた。僕は先日の電話で、彼女がまた、よりを戻したと勘違いしているのじゃないかなと思った。 … 続きを読む

ナイフ

振り向くと礼子が黙って僕の数メートルうしろを歩いている。僕はゾッとした。ひょっとして、彼女は手にナイフか何か持ってるんじゃないか?そしてうしろから俺を・・・・・・。僕はあわてて信号を渡って向かいの通りに出た。彼女は間に合 … 続きを読む

祭りのために人込みができていた

幸い、駅の手前にある公園のところまで来ると、祭りのために人込みができていた。僕はその中に紛れ込んだ。近くで花火が打ち上げられていたようだが、僕にはそれを見る余裕もなくなっていた。 帰りの電車の中で僕は、礼子に夕美の存在を … 続きを読む

耐え難いくらいみじめな気分

あと一週間で会社を辞めることができる。それでも、この会社にいるときは僕の気分は優れない。特にこの数週間は、ひどく気怠い脱力感に支配されていた。僕は少しでも時間が空くと、漫画の仕事のことを考えることにしていた。 僕のデスク … 続きを読む

いちばん好きな季節

朝から夜まで漫画の執筆に取り組む日々が始まった。その週のうちに僕の住んでいるアパートの近くでふたつの花火大会が行なわれたが、僕はいずれもひとりで見に行くことになった。 僕は花火を見ながら物思いに耽った。礼子とのこと、会社 … 続きを読む

大切なもの

後日、僕は川島さんに会った。そして、その話をした。 「それはやっぱり、彼女にとっては、あなたが二番めの男だってことじゃないかしら、きっと」と川島さんは言った。 「でも、自信なくすことないじゃない。あなたって、初めて会った … 続きを読む

Side3

様々な人間模様の中で物語は佳境へ。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

盗聴器

Fは盗聴器を手に入れた。彼女の真意を探るためにだ。 Fは盗聴器受信機のつまみを回してみた。が、そのとき、部屋に異常電波が飛んでいることに気づいた。FM電波がおかしい。誰かに盗聴されている。間違いない。しかし、いったい誰が … 続きを読む

異常

淳子から突然電話が入った。僕は彼女とはほとんどしゃべったことがなかったので少し驚いた。 「お話ししたいことがあるんです」と淳子が言った。たぶんFのことだろう。何かあったのだろうか?僕はいつも行く例のバーの場所を彼女に伝え … 続きを読む

夕焼け

僕は淳子とFのことを気にしながら作品のラストスパートに入った。締め切りまではあと十日間だが、仕事は最初の計画より少し遅れている。僕はほとんど夜も寝ずに執筆作業を続けた。 この作品には、夕美と出会ったこの夏の僕の気分が少な … 続きを読む

連絡が途絶えた

五日間、夕美との連絡が途絶えた。僕の方からも何度か電話をかけてみたが、彼女はいなかった。知り合って以来、僕たちはほとんど毎日のように電話でいろいろな話をすることによってお互いの距離を縮めてきたつもりだったし、ふたりの間で … 続きを読む

新漫画雑誌校了

新漫画雑誌の校了を祝って、僕は川島さんと夕食を共にすることになった。 僕は作品に『黄昏色のBARが語りかけてくる』という少し長めのタイトルをつけた。新漫画雑誌が発売されるのは一ヵ月後だ。 「あなたの作品、社内では好評よ」 … 続きを読む

ひょっとして君は今、銃を

Fが僕のところにやって来た。Fは僕にその後のことを話した。ほとんどの話はすでに淳子から聞いて知っていたことだったが、僕は淳子と会ったことをFには言わずにおくことにした。 「それで」とFは言った。「明日の夜、彼女の家で最後 … 続きを読む

不思議な高速道路

夕美のところに行く前日の夜、やっと夕美から電話が入った。 「元気?」と彼女が言った。 「ああ」 夕美はしばらくの間連絡を取らなかった理由を僕に説明しなかった。また、僕も訊こうとはしなかった。彼女がいつもと変わらない調子だ … 続きを読む

海の見える喫茶店

昼食をとったあと、僕たちは海の見える喫茶店に入った。 「この辺か?手紙に書いていた海っていうのは」と僕が訊いた。 「ここもそうなんだけど、私がいちばん気に入っているところはもう少し先なの。明日ゆっくり案内する」 僕たちは … 続きを読む

マリーナ

その後も彼女はドライブをしながら、いくつかの彼女のお気に入りの場所へ案内してくれた。僕は前夜の不眠のため、時折激しい睡魔に襲われた。 「え」彼女が何か言ったので僕は振り向いた。 「少し眠れば?」 「いや、大丈夫」 ※この … 続きを読む

ねぇ、退屈?

またしばらく走って海岸に出たとき、 「ねぇ」と夕美が言った。「退屈?」 「いいや、そんなことはないよ」 「だって、さっきから『ふんふん』ってうなづいてばかりなんだもん」 「疲れがたまってるんだ、少し」 ※このコンテンツを … 続きを読む

疲れ

その夜、夕美がアルバイトしていたというバーに着いたとき、僕の疲れは頂点に達していた。僕はハイボールを飲んだあと、ドライマーティニを注文した。僕の隣では夕美が終始知り合いのバーテンや常連客たちと楽しそうにしゃべっている。見 … 続きを読む

私は立場が......

「私は立場がなかったわよ」 夕美が腹立たしげに車のドアを叩く音で僕は目が覚めた。 「店の人に挨拶もなしに出ていって、そのまま帰って来ないんだもの」と夕美が言った。 「なぜ起こしてくれなかった」 「何度も見に来たわよ。でも … 続きを読む

早く横に

僕たちは彼女が予約をとっておいてくれたホテルにチェック・インした。 「早く横になれば?」と夕美が言う。 「その前に少し話をしないか?」僕は彼女に訊きたいことがいくつかあった。   先週はずっとどこに行っていた?君はもう俺 … 続きを読む

何か言うことは......

僕たちは近くのレストランで朝食をとることにした。 「ねぇ、何か言うことはないの?さっきからずっと黙ってるけど」と夕美が訊いた。僕はもう何をしゃべる気力も失っていた。 「今日、私、別のところに泊まるから」と彼女が苛立たしげ … 続きを読む

シェルブールの雨傘

車の中には『シェルブールの雨傘』のメロディーが流れていた。車はだんだん駅に近づいていくが、僕の頭の中はどんどん真白になっていく。 「みんな私が悪いのよ」と夕美が言った。「昨日うまくやってれば、こんな風にはならなかった」 … 続きを読む

ありがとう

「本当にそれでいいの?」と彼女が訊いたが、僕はここまで来て、もう引き下がれなくなっていた。僕は車の外に出た。 「本当にいいのね?」と夕美がもういちど訊いた。「もう何も言うことはないのね?」 僕は何も答えず、ただ、「ありが … 続きを読む

ミステリー

僕はアパートに帰ってきた。玄関の前まで来て、僕は鍵がバックの中にあることを思い出したが、それを取り出す気力は残っていなかった。僕は先日見つかったスペアーキーが置いてある空調機の下に手を入れた。僕はギョッとした。スペアーキ … 続きを読む

つまらない野郎め

その一方で、僕の中では夕美と駅で別れたときのことが繰り返し繰り返し何度も甦っていた。なぜ俺はあのときあのまま帰ってしまったんだ。何か他に手はなかったのか。 しかし、今僕はこの部屋にいる。その事実がもうどうしようもなく致命 … 続きを読む

Side4

F、淳子、礼子、川島、夕美、僕。それぞれの夏が通り過ぎてゆく。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

ひとり旅

僕はひとり旅に出ることにした。電車の中や道端で夕美に似た髪型の女を見かけたりすると、あれは彼女じゃないかな?と思ったりした。 旅は一週間の予定だったが、その間僕は不思議な体験をした。毎晩夢の中に昔の懐かしい友人たちが次々 … 続きを読む

ポストカード

僕が旅行から帰ると、ポストには一通の手紙が入っていた。夕美からだった。僕は胸が激しく鳴るのがわかった。部屋に入ると僕はすぐに封を切った。 元気でお過ごしですか?私は相変わらず仕事に遊びに・・・・・・と多忙な毎日です。先日 … 続きを読む

私も昔

いつものバーで、僕は川島さんと会った。僕は夕美との件を話した。 「もしもいいように解釈すれば」と川島さんは言った。「彼女はその一週間、つまり、さっきあなたが言った、連絡が途絶えた一週間のことなんだけど、その間彼女は仕事も … 続きを読む

もうひとつのスペアーキー

漫画雑誌の創刊号が発売された。売れ行きはそう悪くないらしい。僕の作品『黄昏色のBARが語りかけてくる』も好評ということだった。 僕は夕美からもらった手紙や物を段ボール箱の底に眠らせた。 ドアホーンが鳴った。ドアの向こうに … 続きを読む

壊れやすいもの

僕はコーヒーを入れながら、前に川島さんからこういうふうに訊ねられたことを思い出した。 「ねぇ、人生でいちばんたいせつなものってなんだと思う?」 久しぶりに卵を茹でながら僕は考えてみる。人生でいちばんたいせつなもの・・・・ … 続きを読む

過ぎゆく夏

九月半ばのある週末、僕は久しぶりにFに会った。街には過ぎゆく夏のなごりがまだどこかに残っていたが、僕たちにはもうどうでもいいことだった。 いつものようにFの車で僕たちは湾岸に向かった。その途中、例のさびれたバーがある一帯 … 続きを読む

やがてFは話し出した

やがてFは話し出した。 あのとき、君との電話を切ってから俺は考えたんだ、君の言ったことを。少しは冷静になってな。だから、いったん俺は銃を車に置いて淳子の家に向かった。でも、やっぱり俺は・・・・・・。俺はもう何もかもどうな … 続きを読む

やけに床が冷んやりしてやがったのを今でも覚えている

「はっきり言おう。淳子はもう籍を移した。今日君をここへ招いたのは、そのことをしっかりと君の中で確認してもらうためだ」最初にそう言ったのは彼女の父親だった。 「本当か?」俺は淳子にそう訊いた。淳子は黙ったまま小さくうなづい … 続きを読む

僕はFのうしろ姿にほんの少しためらいを感じたが、彼を止めようとはしなかった

話を終えるとFはゆっくりと立ち上がった。手には例の、淳子からもらった指輪が握られていた。 「持っていたのか」と僕は言った。 「ああ、あの一週間後、掘りに行った」 「捨てるのか?」 「ああ、持っていると俺は一生これにとらわ … 続きを読む

遠くの方で汽笛の音が何回かやさしく響いていた

Fの脳裏にこの夏に起こった様々な出来事、そしてそれ以前の日々の断片が走馬灯のように次々と現れては消えていった。そして僕の中にも。 一瞬辺りが静かになった。僕はFのうしろ姿にほんの少しためらいを感じたが、彼を止めようとはし … 続きを読む

エンディング

このストーリーがあった次の年・・・・・・。 ※このコンテンツをご覧いただくためにはJavaScriptをオンにする必要があります。

序章 (iPhone版)

  先日友人Fは、交際中の女との間に一ヵ月間の冷却期間を置くことを提案した。 僕は僕で、二ヵ月ほど前にある女と別れたばかりだ。Fと僕はそれからの週末をどうしていいかわからず、週末が来るたびにただ何となく海や街に … 続きを読む

誰かがやってくる (iPhone版)

  六月は気がつかないうちにやって来ていた。その二週目の週末に、その夏の僕にとって重要な意味を持つ事件が起こることになる。 ───それは音もなく静かに僕の傍に忍び寄り、ある出来事として僕の前に姿を現した。そして … 続きを読む

降参 (iPhone版)

  土曜日に僕の部屋を訪れるものは、月に一回やって来るエホバの証人、もしくはFということになっている。 「参った。降参だ」 「何だまだ寝ていたのか。もうすぐ日が暮れるぜ」 「ありがとう。おかげで爽快な気分だ」 … 続きを読む

本当はミニクーパーに乗りたかった (iPhone版)

  僕が髭を剃り終えて髪をといているとき、Fはもうすでに車のエンジンをかけていた。僕はその日の新聞を片手に急いで部屋を飛び出した。黄昏時の涼しい風が僕の頬を通り過ぎた。僕が助手席に座るとすぐにFは車を発車させた … 続きを読む

その日の朝刊 (iPhone版)

湾岸公園に向かう途中でFはふいに車の速度をゆるめた。この辺りにはいくつかのバーが寂しそうに佇んでいる。「知ってるか?」とFが訊いた。「このへんの店、ずいぶんさびれているだろう」「ああ」「この間ある人から聞いたんだが、この … 続きを読む

湾岸公園 (iPhone版)

湾岸公園は僕の住んでいるアパートから車で約三十分ほど走ったところにある。僕たちの行きつけのディスコはそのすぐ近くだ。僕たちがディスコに入るともうすでにたくさんの男女が集まっていた。音楽はちょっと前から流行りのユーロビート … 続きを読む

出会い (iPhone版)

外はもう日が暮れていて、海の方からは涼しい風が吹いていた。湾岸公園にはたくさんの外灯が灯っていてきれいだ。そこら中に恋人たち、あるいは女たちのグループの姿は見られるが、男のふたり連れは僕たちだけだった。僕たちは適当なベン … 続きを読む

あのとき (iPhone版)

今から考えると、あの時僕が振り返らなければ、何も変わらなかったのだろう。僕は素早くその女たちを確認した。そして一方の女と目が合った。「やぁ」僕が適当に声をかけると女も軽く微笑んで受け流す。「休憩?」「そうよ」「ちょっと座 … 続きを読む

歳 (iPhone版)

「ところで彼女も同じ会社?」「彼女はね、違うのよ。私が前にいた会社で知り合った子で、私の後輩だったの」「彼女の歳は?」「二十歳よ」「ということは、君は彼女よりいくつか年上ということかな?」「さぁね、ところであなたはいくつ … 続きを読む

週末 (iPhone版)

週末だったので街はかなり混んでいたが、とりあえず僕たちは適当なバーを見つけ、四人分の席を確保した。「ところでふたりの名前は?」と僕が訊いた。「私が夕美 (ゆみ)」と僕としゃべっていた方の女が答えた。「そして、隣が幸子」僕 … 続きを読む

それじゃね (iPhone版)

「それじゃね」と夕美が言った。「送っていくよ」僕はふたりを引き止めた。彼女たちが乗り込むとFはゆっくりと車を発車させた。「どこかで酒を買って君たちの部屋でもう少し飲まないか?」とFが彼女たちに訊いた。彼がこういうことを切 … 続きを読む

ホテル (iPhone版)

結局僕たちは彼女たちの泊まっているホテルの部屋に入った。とことん遊ぶのは悪くない。それから僕たちはまた一時間ほどしゃべったあと部屋の電気を消した。ベッドはふたつあって、そのうちのひとつにはFと幸子が、そしてもうひとつには … 続きを読む

何か書くもの (iPhone版)

「ねぇ、何か書くもの持ってる?」と夕美が訊いた。「電話番号教えて」僕はポケットに入っていた何かのイベントのポストカードを取り出した。そしてそれをふたつにちぎってひとつを彼女に渡した。「君のも頼むよ」それが礼儀だ。僕たちは … 続きを読む

拒食症 (iPhone版)

一ヵ月の空白期間のあと、Fは淳子の家のインターホンを押した。彼女は一ヵ月前とはうって変わって、げっそりと痩せてしまっていた。 「どうしたんだ?」とFが訊いた。淳子のかわりに彼女の父親が、彼女が拒食症にかかっていること、二 … 続きを読む

仕事は退屈だ (iPhone版)

仕事は退屈だ。事務所では所長以下六名がデザイン作業に従事しているが、ろくな人間はいない。もったいぶったしゃべり方、人を食った態度、惰性で流す仕事のやり方、そんなすべてが僕には気に入らない。仕事中楽しいのは、まさに仕事をし … 続きを読む

漫画の出版社 (iPhone版)

金曜日に僕は礼子の勤めている出版社を訪れた。会社のあるビルの一階でそのパーティーは行なわれていた。もうすでにたくさんの人間が入り乱れていて、僕はその人の中をかき分けながら川島さんの姿を探した。 「ここよ」川島さんが先に僕 … 続きを読む

誕生日 (iPhone版)

夕美からは、あれ以来毎日のように電話がかかってくるようになった。 「もしもし」夕美からだ。 「起きてた?」夜の十二時だ。ひとりで暮らしていると、こんな時間にも電話はしょっちゅうかかってくる。眠るわけにはいかない。 「元気 … 続きを読む

礼子からの電話 (iPhone版)

僕が漫画の仕事を引き受けてから三日後、また礼子から電話が入った。今度は僕の部屋にだ。 「考えれば考えるほどわからないのよ」と礼子が言った。この間のよそよそしい調子とはうってかわってまたもとに戻ってやがる。やっぱりバカじゃ … 続きを読む

選択 (iPhone版)

「ねぇ、もういちど考え直してみて」と礼子が言ったとき、僕は、ハッと我に返った。 「もう、どうにもならないよ」と僕は言った。 「考え直す余地はないの?」 「ない」僕はきっぱりとそう言った。 「そう」と礼子は言った。「それじ … 続きを読む

結婚式場の予約 (iPhone版)

結局、Fは結婚式場の予約はキャンセルしなかった。そして、彼女と行くはずだった旅行にはひとりで行くことにした。 Fは初めて訪れる風景の中をバイクで飛ばした。いくつかの風景がFの心を少しの間和らげてくれた。牧場の近くでFはバ … 続きを読む

婚約 (iPhone版)

旅行から帰ったあと、Fは一週間彼女からの返事を待った。しかし、彼女からは何の音沙汰もなかった。仕方がないのでFは会社帰りに彼女の家の近くに行き、彼女がどうしているのか探ってみることにした。 三十分経ったが淳子は現れなかっ … 続きを読む

待ち合わせ (iPhone版)

夕美との待ち合わせの場所は新幹線の改札を出たところだった。彼女と初めて会ったのは二週間前だが、僕は彼女の顔をあまりよく覚えていない。僕は昨日の夜電話で彼女に、うまく見つけてくれよ、と頼んでおいた。僕は周りを見渡したが彼女 … 続きを読む

本 (iPhone版)

部屋に帰ると窓から西陽が少し入りかけていた。僕はすぐに冷房のスイッチを入れた。 「いい部屋じゃない」と夕美が言った。 「気に入った?」 「ええ、とってもいい感じ」 「でもよく見ると、そんなに金をかけていないのがわかるだろ … 続きを読む

黄昏ベランダ (iPhone版)

夕美が西日の当たっている窓の方を指した。僕の部屋には少し広めのベランダがついている。そこにはデッキチェアーがふたつと、ビーチパラソルのついたテーブルセットが置かれてある。彼女がベランダに出たので、僕もそのあとに続いた。黄 … 続きを読む

日が落ちてきた (iPhone版)

夕美が、ちょっと早いけど乾杯にしない?と言うので、僕はビールと、買ってきた食べ物をいくらかテーブルの上に並べた。彼女はバーボンが好きだということだったので、とりあえず買っておいた。 「再会できたことに」そう言って僕たちは … 続きを読む

もう何も (iPhone版)

「だめね、私って。肝心なときになぜかおじ気づいてしまうのよ」と夕美が言った。 僕は何も言わず、ずっと窓の外を眺めていた。 「昔はこうじゃなかったんだけどさ」 「ねぇ」と夕美が言った。「怒ってる?」 「いいや」と僕は言った … 続きを読む

こんな女 (iPhone版)

夕美と再会した次の週末、僕はFと会った。僕たちは湾岸に行くことにした。 Fはこれまでの淳子との経緯を僕に話した。 「あっけにとられた」と海を見ながらFが言った。「ついこの間見合いをした男と、一週間も経たないうちに婚約して … 続きを読む

手紙届いた? (iPhone版)

お元気ですか?私は元気にしています。 先日はいろいろとお世話になり、本当にありがとうございました。 今週は月曜日から信じられないほど仕事が忙しいの。今日は水曜日。会社で書こうと思ったけれど、忙しくてとてもそんな時間がなく … 続きを読む

この違いわかる? (iPhone版)

「さっき自分でしゃべってて気づいたんだけど」 「?」 「女の子って普通、自分のことを私って言うじゃない」 「ああ」 「それで、『わたし』と『あたし』の違いってあるのよね」 「夕美は何て言ってたっけ?」 「『あたし』。自分 … 続きを読む

Side2 (iPhone版)

F、順子、礼子、川島、そして、僕と夕美を絡めた物語はさらに複雑な階層構造となって展開していく。

夕美はいつも (iPhone版)

夕美はいつも『それじゃね、おやすみ』と言ってから電話を切る。それが彼女の口癖らしい。そういえば、この間電話で彼女は言っていた。私は、仕事は仕事できっちりやらないと気が済まない性質なのだ、と。また、仕事をきちんとやり通せな … 続きを読む

俺たちのやっている仕事は (iPhone版)

昼休みのあとも僕は考え事をしていたので、うしろの席の眼鏡をかけた女が呼んでいるのに気づかなかった。 「いいかげんにしてよ」と彼女は言った。「忙しいんだから、お互いに」 「ああ、ごめん。それで?」 「そのパッケージのデザイ … 続きを読む

退職願 (iPhone版)

しかし、その件があった数日後、僕はやはりこの事務所の空気が肌にあわないことを悟った。そして、それと同時に僕は、会社の中では自分の殻に閉じこもってしまっている自分に気づいた。社内の人間たちと言葉を交わすこともほとんどなくな … 続きを読む

射撃場 (iPhone版)

Fは、会社には市場調査に行くと嘘をついて射撃場にいた。Fは銃を握りながら淳子とのことを考えた。   本当にこれでよかったんだろうか?いや、だめだ。このままでは俺は一生後悔することになる。 俺は必ず彼女を取り戻す。 その夜 … 続きを読む

君がそこに立っているだけで (iPhone版)

またその次の日、「いいかげんにしないか」と彼女の父親はFの胸ぐらをつかんで言った。 「僕は淳子さんを愛しています。だからここに立ちます。誰にも迷惑はかけません」 「君がそこに立っているだけで、もうすでに充分迷惑だというこ … 続きを読む

星に願いを (iPhone版)

夕美から小包が届いた。封を開けると、中には小さな手動式のオルゴールと懐中電灯が入っていた。先日彼女が会社の連中とディズニーランドに行ったときのみやげだと同封の手紙に書いてあった。 僕はオルゴールを鳴らしてみた。『星に願い … 続きを読む

懐中電灯 (iPhone版)

懐中電灯の先の丸い部分の中にある銀の小片に光が反射して、 僕の部屋には予想もしなかった幻想的な美しい光が照らし出された。 さらに振ってみると、光は赤から黄、そして青へと変わっていった。 僕はまるで夢でも見ているような気持 … 続きを読む

手紙 (iPhone版)

数日後、夕美からある手紙が届いた。これまでも彼女からは何通か手紙が届いていたがそれらはとりとめのない内容のものだった。しかし、今回のものは特に長く、便箋で五枚にも渡っていた。僕はこの手紙に強い共感を覚えた。そして、彼女と … 続きを読む

ささやくような気持ち (iPhone版)

電話が鳴った。礼子からだった。 「久しぶり」と礼子が言った。彼女とはこの間喧嘩をしたままになっていたが、僕はもうそんなことなど忘れていた。というより、仕事のことで、それどころではなかったのだ。 「元気にしてる?」 「まぁ … 続きを読む

切るに切れない電話 (iPhone版)

次の朝僕は電話の音で目が覚めた。 「もしもし、私」と夕美が言った。時計を見ると、まだ六時三十分だった。 「ああ、どうした?」 「昨日眠れなかった」 「なぜ?」 「電話をかけたけど、ずっと話中だったから」しまった。昨日は夕 … 続きを読む

僕はそんな彼女の考え方にとても興味を持った (iPhone版)

ふたたび夕美が僕の部屋にやって来た。一ヵ月ぶりに見る彼女はやはり美しかった。この一ヵ月の間に変わったこと、それは僕が確実に彼女を愛し始めたということだ。僕は彼女といる三日間の間になんとかそのことを彼女に伝えたいと思ってい … 続きを読む

別れた人 (iPhone版)

僕たちは船乗り場の近くにあるバーに入った。以前は倉庫だった建物をそのままバーにしたという店なのだが、僕はここが気に入っている。川島さんともよくここへ来る。カウンターでは女性のマスターがシェーカーを振っている。店にはまだそ … 続きを読む

十八のとき (iPhone版)

「彼とは私が十八のときに知り合ったの。私は短大生で彼は高校生だった。彼はまだ子供で、精神的にも私の方がずっと年上だった。大げさに聞こえるかも知れないけれど、彼はいつも私のことを、生きる上でのお手本にしてるみたいな、とにか … 続きを読む

私、殺されてもいい (iPhone版)

「彼と会ったときに彼『昨日はどこに泊まったんだ』って言うの。私は正直にありのままのことを言ったの。本当に何もなかったから。でも彼は信じてくれなかった。彼があんなに怒ったのはそれまで見たことがなかった。それで喧嘩になって、 … 続きを読む

いちばん好きな人 (iPhone版)

「そのあとまた少し経ってからもとに戻ったんだけど、やっぱりうまくいかなかった。 彼は、私と会ってると、つらくてつらくて仕方がないって言ってた」 僕にはその彼の気持ちがとてもよくわかった。 「君はたいせつな人を失ったな」と … 続きを読む

そのとき僕たちは最高潮に達した (iPhone版)

次の朝、正確に言えばもう昼前だったが、僕は夕美の声で目が覚めた。 「ねぇ、私今から帰る」 「もう帰るのか?」本当なら夜まで一緒にいるはずだった。 「なんだか帰った方がいいような気がするのよ」 僕は憂鬱な気分のままゆで卵を … 続きを読む

海につき合ってくれる? (iPhone版)

「来月来たらさ、海につき合ってくれる?」と彼女が訊いた。 「いいよ」 「それと、私のよく行くバーも紹介したいんだけど」 「ああ、興味があるな。どんなバーなんだろう?というより夕美にとって、どんな意味のあるバーなんだろう? … 続きを読む

花束 (iPhone版)

Fが淳子に送った花束が送り返されてきた。同封の手紙は彼女の父親からのものだった。どうやら、彼女の父親が送り返してきたらしい。 これは君に返す。娘のためにだ。このような真似は、金輪際やめてくれ。 花はしおれかかっていた。F … 続きを読む

漫画のアイデア (iPhone版)

川島さんから依頼された漫画のアイデアが出来上がった。僕はそれを持って、再び礼子の会社を訪れた。 「どう?調子は」と川島さんが訊いた。 「ええ、なんとかがんばっています」 僕は漫画のアイデアを説明した。ストーリーの中に出て … 続きを読む

待ち伏せ (iPhone版)

どうやら彼女は僕を待ち伏せしていたようだ。彼女は一瞬薄気味悪い笑みを浮かべた。僕は先日の電話で、彼女がまた、よりを戻したと勘違いしているのじゃないかなと思った。僕は何も言わず彼女を振り切って帰ろうとした。 「なぜ逃げるの … 続きを読む

ナイフ (iPhone版)

振り向くと礼子が黙って僕の数メートルうしろを歩いている。僕はゾッとした。ひょっとして、彼女は手にナイフか何か持ってるんじゃないか?そしてうしろから僕を・・・・・・。

祭りのために人込みができていた (iPhone版)

僕はあわてて信号を渡って向かいの通りに出た。彼女は間に合わなかったようだ。しかし向こうの通りを歩きながらまだ僕をつけてくる。 幸い、駅の手前にある公園のところまで来ると、祭りのために人込みができていた。僕はその中に紛れ込 … 続きを読む

耐え難いくらいみじめな気分 (iPhone版)

あと一週間で会社を辞めることができる。それでも、この会社にいるときは僕の気分は優れない。特にこの数週間は、ひどく気怠い脱力感に支配されていた。僕は少しでも時間が空くと、漫画の仕事のことを考えることにしていた。 僕のデスク … 続きを読む

いちばん好きな季節 (iPhone版)

朝から夜まで漫画の執筆に取り組む日々が始まった。その週のうちに僕の住んでいるアパートの近くでふたつの花火大会が行なわれたが、僕はいずれもひとりで見に行くことになった。 僕は花火を見ながら物思いに耽った。礼子とのこと、会社 … 続きを読む

大切なもの (iPhone版)

後日、僕は川島さんに会った。そして、その話をした。 「それはやっぱり、彼女にとっては、あなたが二番めの男だってことじゃないかしら、きっと」と川島さんは言った。 「でも、自信なくすことないじゃない。あなたって、初めて会った … 続きを読む

Side3 (iPhone版)

様々な人間模様の中で物語は佳境へ。

盗聴器 (iPhone版)

Fは盗聴器を手に入れた。彼女の真意を探るためにだ。 Fは盗聴器受信機のつまみを回してみた。が、そのとき、部屋に異常電波が飛んでいることに気づいた。FM電波がおかしい。誰かに盗聴されている。間違いない。しかし、いったい誰が … 続きを読む

異常 (iPhone版)

淳子から突然電話が入った。僕は彼女とはほとんどしゃべったことがなかったので少し驚いた。 「お話ししたいことがあるんです」と淳子が言った。たぶんFのことだろう。何かあったのだろうか?僕はいつも行く例のバーの場所を彼女に伝え … 続きを読む

ラストスパート (iPhone版)

僕は淳子とFのことを気にしながら作品のラストスパートに入った。締め切りまではあと十日間だが、仕事は最初の計画より少し遅れている。僕はほとんど夜も寝ずに執筆作業を続けた。 この作品には、夕美と出会ったこの夏の僕の気分が少な … 続きを読む

連絡が途絶えた (iPhone版)

五日間、夕美との連絡が途絶えた。僕の方からも何度か電話をかけてみたが、彼女はいなかった。知り合って以来、僕たちはほとんど毎日のように電話でいろいろな話をすることによってお互いの距離を縮めてきたつもりだったし、ふたりの間で … 続きを読む

新雑誌校了 (iPhone版)

新雑誌の校了を祝って、僕は川島さんと夕食を共にすることになった。 僕は作品に『黄昏色のBARが語りかけてくる』という少し長めのタイトルをつけた。新雑誌が発売されるのは一ヵ月後だ。 「あなたの作品、社内では好評よ」と川島さ … 続きを読む

ひょっとして君は今 (iPhone版)

Fが僕のところにやって来た。Fは僕にその後のことを話した。ほとんどの話はすでに淳子から聞いて知っていたことだったが、僕は淳子と会ったことをFには言わずにおくことにした。 「それで」とFは言った。「明日の夜、彼女の家で最後 … 続きを読む

不思議な高速道路 (iPhone版)

夕美のところに行く前日の夜、やっと夕美から電話が入った。 「元気?」と彼女が言った。 「ああ」 夕美はしばらくの間連絡を取らなかった理由を僕に説明しなかった。また、僕も訊こうとはしなかった。彼女がいつもと変わらない調子だ … 続きを読む

海の見える喫茶店 (iPhone版)

昼食をとったあと、僕たちは海の見える喫茶店に入った。 「この辺か?手紙に書いていた海っていうのは」と僕が訊いた。 「ここもそうなんだけど、私がいちばん気に入っているところはもう少し先なの。明日ゆっくり案内する」 僕たちは … 続きを読む

マリーナ (iPhone版)

その後も彼女はドライブをしながら、いくつかの彼女のお気に入りの場所へ案内してくれた。僕は前夜の不眠のため、時折激しい睡魔に襲われた。 「え」彼女が何か言ったので僕は振り向いた。 「少し眠れば?」 「いや、大丈夫」

ねぇ、退屈? (iPhone版)

またしばらく走って海岸に出たとき、 「ねぇ」と夕美が言った。「退屈?」 「いいや、そんなことはないよ」 「だって、さっきから『ふんふん』ってうなづいてばかりなんだもん」 「疲れがたまってるんだ、少し」

疲れ (iPhone版)

その夜、夕美がアルバイトしていたというバーに着いたとき、僕の疲れは頂点に達していた。僕はハイボールを飲んだあと、ドライマーティニを注文した。僕の隣では夕美が終始知り合いのバーテンや常連客たちと楽しそうにしゃべっている。見 … 続きを読む

私は立場が...... (iPhone版)

僕は彼女の車の中に逃げ込む。そして、シートを倒すと僕はそのまま深い眠りに落ちていった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆  「私は立場がなかったわよ」 夕美が腹立たしげに車のドアを叩く音で僕は目が覚めた。 「店の人に挨拶もなしに出てい … 続きを読む

僕たちは彼女が予約をとっておいてくれたホテルにチェック・インした (iPhone版)

僕たちは彼女が予約をとっておいてくれたホテルにチェック・インした。 「早く横になれば?」と夕美が言う。 「その前に少し話をしないか?」僕は彼女に訊きたいことがいくつかあった。______先週はずっとどこに行っていた?君は … 続きを読む

何か言うことは...... (iPhone版)

僕たちは近くのレストランで朝食をとることにした。 「ねぇ、何か言うことはないの?さっきからずっと黙ってるけど」と夕美が訊いた。僕はもう何をしゃべる気力も失っていた。 「今日、私、別のところに泊まるから」と彼女が苛立たしげ … 続きを読む

シェルブールの雨傘 (iPhone版)

車の中には『シェルブールの雨傘』のメロディーが流れていた。車はだんだん駅に近づいていくが、僕の頭の中はどんどん真白になっていく。 「みんな私が悪いのよ」と夕美が言った。「昨日うまくやってれば、こんな風にはならなかった」 … 続きを読む

ありがとう (iPhone版)

僕は何も答えず、ただ、「ありがとう」と言って車のドアを閉めた。 駅のホームに僕はぼんやりと立っていた。そこは高台になっていて、遠くの方まで見渡すことができた。皮肉なことに今日も快晴らしい。______やがて電車がプラット … 続きを読む

ミステリー (iPhone版)

僕はアパートに帰ってきた。玄関の前まで来て、僕は鍵がバックの中にあることを思い出したが、それを取り出す気力は残っていなかった。僕は先日見つかったスペアーキーが置いてある空調機の下に手を入れた。僕はギョッとした。スペアーキ … 続きを読む

つまらない野郎め (iPhone版)

その一方で、僕の中では夕美と駅で別れたときのことが繰り返し繰り返し何度も甦っていた。なぜ俺はあのときあのまま帰ってしまったんだ。何か他に手はなかったのか。 しかし、今僕はこの部屋にいる。その事実がもうどうしようもなく致命 … 続きを読む

Side4 (iPhone版)

F、淳子、礼子、川島、夕美、僕。それぞれの夏が通り過ぎてゆく。

幻影 (iPhone版)

僕はひとり旅に出ることにした。電車の中や道端で夕美に似た髪型の女を見かけたりすると、あれは彼女じゃないかな?と思ったりした。 旅は一週間の予定だったが、その間僕は不思議な体験をした。毎晩夢の中に昔の懐かしい友人たちが次々 … 続きを読む

ポストカード (iPhone版)

僕が旅行から帰ると、ポストには一通の手紙が入っていた。夕美からだった。僕は胸が激しく鳴るのがわかった。部屋に入ると僕はすぐに封を切った。 元気でお過ごしですか?私は相変わらず仕事に遊びに・・・・・・と多忙な毎日です。先日 … 続きを読む

私も昔 (iPhone版)

いつものバーで、僕は川島さんと会った。僕は夕美との件を話した。 「もしもいいように解釈すれば」と川島さんは言った。「彼女はその一週間、つまり、さっきあなたが言った、連絡が途絶えた一週間のことなんだけど、その間彼女は仕事も … 続きを読む

もうひとつのスペアーキー (iPhone版)

4 漫画雑誌の創刊号が発売された。売れ行きはそう悪くないらしい。僕の作品『黄昏色のBARが語りかけてくる』も好評ということだった。 僕は夕美からもらった手紙や物を段ボール箱の底に眠らせた。 ドアホーンが鳴った。ドアの向こ … 続きを読む

壊れやすいもの (iPhone版)

僕はコーヒーを入れながら、前に川島さんからこういうふうに訊ねられたことを思い出した。 「ねぇ、人生でいちばんたいせつなものってなんだと思う?」 久しぶりに卵を茹でながら僕は考えてみる。人生でいちばんたいせつなもの・・・・ … 続きを読む

過ぎゆく夏 (iPhone版)

九月半ばのある週末、僕は久しぶりにFに会った。街には過ぎゆく夏のなごりがまだどこかに残っていたが、僕たちにはもうどうでもいいことだった。 いつものようにFの車で僕たちは湾岸に向かった。その途中、例のさびれたバーがある一帯 … 続きを読む

やがてFは話し出した (iPhone版)

______あのとき、君との電話を切ってから俺は考えたんだ、君の言ったことを。少しは冷静になってな。だから、いったん俺は銃を車に置いて淳子の家に向かった。でも、やっぱり俺は・・・・・・。俺はもう何もかもどうなってもいいと … 続きを読む

やけに床が冷んやりしてやがったのを今でも覚えている (iPhone版)

しかし、気がついたら彼女の父親のカウンターが俺の左頬に入っていた。俺も応酬した。彼女の父親と俺は取っ組み合いになった。そばでは彼女と彼女の母親が叫んでる声が聞こえていた。俺は彼女の父親に何発かフックをお見舞いしたはずなん … 続きを読む

僕はFのうしろ姿にほんの少しためらいを感じたが、彼を止めようとはしなかった (iPhone版)

話を終えるとFはゆっくりと立ち上がった。手には例の、淳子からもらった指輪が握られていた。 「持っていたのか」と僕は言った。 「ああ、あの一週間後、掘りに行った」 「捨てるのか?」 「ああ、持っていると俺は一生これにとらわ … 続きを読む

遠くの方で汽笛の音が何回かやさしく響いていた (iPhone版)

Fは大きくかぶりを振ったあと、ひと思いに指輪を海に向かって投げつけた。 遠くの方で汽笛の音が何回かやさしく響いていた。

エンディング (iPhone版)

P・S このストーリーがあった次の年、Fはその後知り合った女と結婚した。今では子供もひとり生まれ、仕事の方も順調だということだ。そして、もう僕のところには遊びに来なくなった。おそらく、僕と会うと奥さんに咎められるのだろう … 続きを読む

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